新潟家庭裁判所三条支部 昭和32年(家)619号 審判 1969年2月25日
申立人 杉山ミネ(仮名) 外一名
相手方 杉山育夫(仮名) 外三名
主文
本件申立を却下する。
本件につき当裁判所が仮の処分として昭和三三年一二月八日になした管理人選任の審判及び昭和三四年三月二〇日になした不動産引渡の審判はいずれもこれを取消す。
理由
一 申立の趣旨及び事件の実情の要旨は次のとおりである。
申立人及び相手方等の被相続人杉山勇夫は昭和三一年九月四日死亡し、相続人の内村野ヨネ・高橋トメ・沢田ミヨ・杉山晃・杉山清治・亡田代マツの代襲相続人等は、いずれも法定期間内に相続放棄の申述をなし受理された。ところで申立人両名及び相手方等は共同相続人となつたのであるが、遺産である不動産並びに動産の分割について共同相続人間に協議が調わないので、遺産分割の審判を求めるというのである。
二 調査の資料は次のとおりである。
(一) 当庁昭和三一年(家)第一二三八号乃至第一二五二号相続放棄申述事件の記録
(二) 当庁昭和三二年(家イ)第四号遺産分割調停事件の記録(申立人杉山育夫・相手方杉山達夫外三名)
(三) 本件における、峰岸マキ(二回)・杉山ミネ(七回)・杉山育夫(一〇回)・沢田ミヨ・杉山隆(二回)・町田正・高橋トメ・杉山達夫(八回)・杉山清治・杉山安夫・杉山太一(二回)・岩戸功助を各審問した結果、及び本件記録一切
(四) 家庭裁判所調査官の本件に関する調査記録
三 調査の結果
(一) 被相続人杉山勇夫は昭和三一年九月四日に死亡し、その当時における相続人は、別紙、身分関係表記載のとおり、長女田代マツの代襲相続人として田代順一外七人・二女村野ヨネ・三女高橋トメ・四女沢田ミヨ・二男杉山育夫・五女峰岸マキ・六女杉山ミネ・三男亡作一の代襲相続人として杉山太一・四男杉山達夫・五男杉山晃・六男杉山清治であつた。
(二) 勇夫の遺産は田約二〇アール余・畑約五〇アール余・原野約一〇アール余・山林約六〇アール余・宅地約八九平方メートル・住家一棟及び附属建物数棟(但し建物は昭和三六年九月全部火災により焼失)であつで、相手方育夫が事実上勇夫の後継者として農業を営んでいた。
(三) ところで、育夫は前記遺産を現物分割することは農業経営上相当でないと考え親せきの町田正に依頼し、同人のあつせんにより昭和三一年一〇月頃相続人の杉山ミネ・杉山達夫・沢田ミヨ・杉山清治・高橋トメ等が○○市の沢田ミヨ方に会合し相談の結果、遺産は現物分割せず全部育夫の所有とし、その代償として育夫より各相続人に対し金七万円ずつを支払うという案が成立し、その後、このことを町田正から育夫に話したところ、同人もこれを承諾した。
そして、昭和三一年一一月二九日に育夫方において、勇夫の四九日法要を営むこととし、その際相続人等に前記遺産分配案を再確認し実行すべく、各相続人に法要の案内と共にその際印鑑及び印鑑証明書を持参するよう連絡したのである。
そこで、前記法要当日集つた相続人等に対し前記の趣旨を町田正から説明し、育夫は、村野ヨネ、高橋トメ、沢田ミヨ・峰岸マキ、杉山ミネ・杉山達夫・杉山晃・杉山清治の以上八名の相続人に対し各金七万円ずつを交付し、同時に同人等からその受領書と相続放棄申述書に記名押印をさせてこれを受取つた。
もつとも、勇夫の長女田代マツの代襲相続人等はいずれも無条件(七万円を辞退して)で相続放棄を承諾し、又作一の代襲相続人太一は当時未成年であつたがその養父杉山安夫が同様無条件で相続放棄を承諾した。
(四) このようにして、昭和三一年一二月三日、当庁に相続人全員から相続放棄申述書が提出された。ところが、その内峰岸マキ・杉山ミネ・杉山達夫・杉山太一の四名は前記申述を取下げ、その余の一一名の申述は昭和三二年一月八日においてすべて受理された。
そこで、この取下げた杉山ミネ・峰岸マキが相続権があるとして本件遺産分割の申立をするに至つたのである。
(五) ところで、前記杉山太一は、昭和四〇年七月二日に死亡し、その妻アキ子(島田春雄と再婚)及び、母ソメ(現在岩戸功助妻)が、本件太一の相続分を承継したのであるが、この両名は昭和四三年八月一二日にその相続分をいずれも育夫に譲渡し、その代償として各金三万五〇〇〇円ずつを受取つた。従つて、この両名は勇夫の遺産に対し現在相続分を有しないこと明白である。
(六) 本件における問題点は、杉山ミネ・峰岸マキ・杉山達夫の三名が勇夫の遺産に対し相続分を有するか否かの点であるが、真正に成立したと認められる同人等が杉山育夫宛に交付した前示金七万円の受領書の記載に「金七万円也、但し相続人杉山勇夫死亡により相続分として杉山育夫より受領、右金円確かに受領致しましたので杉山勇夫の遺産については相続分はありません」と明記されているのである。ところで、この三名は、前記金七万円は単なる「かたみ分け」という話で受取つたもので遺産分配の意味ではない旨主張しているけれども、同人等はいずれもその受領書に自ら署名したものであることが認められるし、その文言文意及び前記認定した諸般の事実を総合すると、前記金七万円を受取ることにより同人等の相続分を育夫に譲渡したものと認めなければならない。
四 結び
以上の理由により杉山勇夫の遺産に対する相続分はすべて育夫一人に帰属したので、本件遺産分割の申立は失当であるからこれを却下し、なお、仮の処分として先になした主文掲記の審判はいずれも不必要と認め、これを取消すこととし、主文のとおり審判する。
(家事家庭審判官 荒井重与)